和歌山県立近代美術館

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わが国の近代美術館事情20

わが国の近代美術館事情20

(4)「和歌山県立近代美術館」の昨日、明日―その17

 

当館では、11月2日(土)から、新たな展覧会が3つ開幕した。特別展である「2020日・チェコ交流100周年 ミュシャと日本、日本とオルリク」、そして和歌山県と県教育委員会、外務省外交史料館が主催する外交史料展「外交史料と近代日本の歩み」と「コレクション展 2019−冬 ニホンラシサを探せ」の3つの展覧会である。

この夏の特別展「ニューヨーク・アートシーン ロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまで」も、かつてこのメッセージでも触れたように、夏休み企画として、こどもたちにも数多く来館してもらい好評だった。その好調さを維持すべく、今秋の当館のこれら3つの展覧会は、いずれもひと味違った内容になっている。

まず、「外交史料と近代日本の歩み」展は、外務省外交史料館の全面的な協力の下、和歌山県と県教育委員会との主催によって開催されたものである。和歌山県ゆかりの陸奥宗光の業績をあらためて回顧する内容が中心であるが、外交史料館の史料が、西日本でこれほど多数公開されるのもはじめての機会だという。それに加えて、和歌山県立文書館や県立図書館、和歌山市立博物館、宮城県美術館、明治神宮他の協力を得て、美術動向も重ね合わせながら「外交史料」を再認識できる場ともなった。さる11月4日には、和歌山県知事や外交史料館長による記念シンポジウムも開催された。私も聴講したが、こうした企画が美術館で開かれたことは、「近代」を掲げる当館にとっても、さらに新たな活動範囲を広げる機会となったのではないかと思う。

一方「ミュシャと日本、日本とオルリク」展は、当館で、2016年に開催した「動き出す!絵画 ペール北山の夢―モネ、ゴッホ、ピカソらと大正の若き洋画家たち」以来、和歌山県として特別の予算を組んで3年に一度実施する、いわゆる「大規模展」と呼ぶ事業の2度目の展覧会である。私が当館に赴任する以前からすでに構想はあたためられ、公立館が海外の美術館と直接交渉するかたちで準備がすすめられてきた。

わが国の国立を含めた公立美術館では、当然のことながら、これまで枚挙にいとまがないほど海外の美術を紹介する展覧会が開かれてきた。しかし、たとえば日本の国公立美術館の学芸員が、直接海外の美術館に乗り込んで出品交渉を行い、展覧会を開く事例は、残念ながら少ないと言わざるを得ない。海外展の多くは、新聞社や展覧会企画会社などの協力を得る形で開かれてきた経緯があり、その意味でも今回の展覧会は貴重な成果をもたらした。

チェコ国立プラハ工芸美術館や、ドイツのダッハウ絵画館はじめ、多数の国内外の美術館や個人コレクターの協力を得て開催の運びとなった本展覧会は、実現にいたるまで関係者との交渉を重ねた担当学芸員たちの努力と執念の賜物と言っても過言ではない。

今回の「ミュシャと日本、日本とオルリク」展はまた、私個人にとっても思い入れの深い展覧会である。近年わが国でも多くのファンを集めるミュシャであるが、あらためて思いをめぐらせば、浅井忠がパリ滞在中の下宿に《ジョブ》(1898年)のポスターを飾っていた事実も、再考されるべき事柄であるだろう。帰国後の浅井が、ミュシャの流れるような女性の髪の表現を自らの工芸図案に取り込み、杉林古香との共作による漆器の制作に結晶させることで、京都工芸界の新たなステージを開拓したことも思い浮かぶ。さらに後年になっても、1920年代モダニズムを象徴するプラトン社の『女性』や『苦楽』で活躍した山六郎や山名文夫(後に資生堂でも才能を発揮する)らの仕事や宝塚歌劇の機関誌『歌劇』の表紙絵などの源となるイメージ、さらに形を直接引用する以上の表現上の「気分」が、ミュシャにあったのではないかという思いを強くもつ契機を与えてくれる展覧会ともなった。

他方エミール・オルリクは、私が兵庫県立近代美術館の学芸員としてはじめて携わった海外展である「ジャポニスムとアール・ヌーボー」展(1981年)に出品されていたことも懐かしい。この展覧会は、ハンブルク装飾工芸美術館が所蔵するグラフィック作品によって、ヨーロッパのジャポニスムを紹介した企画であった。今回、当館のポスターやチラシのメイン・イメージとなった、ミュシャの《「サロン・デ・サン ミュシャ作品展」ポスター》も出品されていた。オルリクの来日が織田一磨らの版画制作に影響を与えたことなど、当時、私も気づかないでいた「チェコと日本 めぐるジャポニスム」の具体的事例が紹介されたことも、本展覧会の大きな成果だろう。

本展覧会の実現までの経緯をたどれば、私も館長として、第1会場の千葉市美術館の開会式の際に、「開幕を迎え、一番乾杯したいのは私だ」と打ち明けたように、様々の思いがよぎる。そして当館閉幕後も、岡山県立美術館(1月4日−2月11日)と静岡市美術館(4月11日−5月24日)でも巡回開催されるので、ぜひご覧いただきたい。また展覧会図録も国書刊行会から一般図書として発行され、全国の書店でも入手可能で、ご来館がかなわない方々にはぜひ書店で手にとっていただけるようお願いしたい。

 

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