和歌山県立近代美術館

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わが国の近代美術館事情27

わが国の近代美術館事情27

(4)「和歌山県立近代美術館」の昨日、明日―その24

 

昨年は、和歌山県立近代美術館の開館50周年にあたり、秋には記念展も無事開催することができた。だが、4月にはコロナ禍によって全国に緊急事態宣言が発出され、当館でも、展覧会は来館者のご協力を得て予定どおり開催したものの、イベントほかの行事は、残念ながら中止せざるを得ない状況も続いていた。

その中に、令和元年度・和歌山県博物館施設等災害対策連絡会議(以下、和博連)の幹事会と研修会もあった。前回のこのメッセージでも「危機管理」について触れた際、阪神・淡路や東日本大震災の発生以降、地震や津波、さらには大型台風や豪雨などの自然災害への対策とともに、想定される南海トラフ地震に向けて、和博連の今後の活動も重要だと記した。

そして今年1月20日に、この和博連の幹事会と令和元・2年度活動報告が開かれ、副会長である私も、和博連の意義について再認識する機会となった。それというのも、議事に取り上げられた「和歌山県文化財保存活用大綱について」は、実は、中止となった昨年の「和博連」の研修会で、和歌山県教育庁文化遺産課教育企画員・黒岩哲夫氏が報告されることになっていて、あらためてその内容を確かめる機会になったからである。今回、その58頁におよぶ「和歌山県文化財保存活用大綱」(令和3年3月 和歌山県教育委員会)が明らかにされたが、これは平成31年4月に改正文化財保護法が施行され、都道府県の教育委員会が、国の指針に基づいて文化財の保存及び活用に関する総合的な施策の大綱を定めることが可能となり、その和歌山県の成果が示されたものである。

とりわけ本県が、「大綱」を全国の都道府県に先駆けて作成した背景には、「和歌山県では、近年、人口減少率が年間−1%前後であり、全国でも人口減少と過疎化、少子・高齢化が一段と早いスピードで進み」、「その影響は、社会生活のみならず、文化財保護行政にも及んで」いることが懸念され、「歴史的建造物、伝統的な祭礼などが経済的あるいは人的要因により維持管理が困難となり、消滅の危機に瀕しているものもある」からだ。さらに周知のとおり、「近年では、集中豪雨や猛烈な台風などによる風水害が頻発し、文化財にも多大な被害をもたらして」いることに加え、「南海トラフ地震が今後、30年以内に発生する確率が70%〜80%と予想される」懸念が、何より大きい(以上、「第1章 大綱策定の背景と目的 1 文化財と社会情勢」より)。

私自身、その体験が生々しく記憶に残っている平成7年の阪神・淡路大震災は、まったく想定外の出来事だった。10年前の東日本大震災も、発生すれば津波の被害も検討されていたが、福島第一原発の事故にも見られるように、その対策は間に合わなかった。だが、南海トラフ地震はそうではない。間違いなく近い将来に発生することが確実視され、「大綱」にもこうした危機感が反映されている。

和歌山県は、豊かな地理的・歴史的遺産を背景に、数多くの文化財に恵まれ、国宝36件で全国6位、重要文化財394件で7位となっており、史跡・名勝・天然記念物の宝庫でもある。こうした広範で多岐にわたる「文化財」の防災対策及び災害発生時への対応については、この「大綱」の第6章にもまとまられ、「和博連」の役割も強調されている。

そこで、私自身の体験から、ひとつの「提言」をしたい。それは、少なくとも「和博連」幹事会に出席している県や市の学芸員などの専門職員、そして県文化遺産課の担当職員は、万一の災害発生時において、即座にいわゆる「文化財レスキュー」と呼ばれる活動に専念できる体制を確立しておかねばならないことである。

阪神・淡路大震災発生時、県立美術館の学芸員であるとともに、兵庫県職員でもあった私は、1か月も経たないうちに、県内各所に設けられた避難所に、応援にかけつけた他県のパトカーに同乗し、その要望をとりまとめ、さらに公園に設置されたテント村に1週間泊まり込んで、自衛隊員とともに、そこで生活する人たちの食事や物資を担う仕事にも従事した。もちろんこうした活動は、県職員として当然のことだった。

しかし、繰り返すが、現在の和歌山県の場合とは異なり、まったく予期せぬ被災でもあった兵庫県では、「災害発生時での対応」自体、未熟だったことも痛感した。地震発生時は早朝であったため、職員のほとんどが自宅にいて、そこで被災してしまった者も数多く、職場と生活する地域コミュニティーとの間に横たわる問題も見逃せない。

おそらく日中の勤務時間中に災害が発生すれば、即座に職場の対応に追われるに違いないが、当然、家族のことも気が気でないはずだ。このことは、たとえば現在のコロナ禍での医療従事者の方々の場合とも重なってくる。いわゆる「有事」での対応について、予期される「具体的な事象」についても「大綱」には盛り込まれるべきだろう。「大綱」の末尾には、「別添資料 1」として、和歌山県の【総合計画・基本計画等】に、「(5)『和歌山県国土強靱化計画』」があり、そこで「①災害による犠牲者ゼロの実現 ②発生直後の救助体制と早期復旧体制の確保」と明記されている。私は、この2項目がもっとも重要であり、「犠牲者ゼロ」そして「救助体制」という人的側面への配慮なくしては、「文化財レスキュー」も成り立たない。

そして今回の幹事会では、同時に『「災害の記憶」を未来に伝えるー和歌山県の高校生の皆さんへ−』という冊子が配布された。和歌山県立博物館編集・同館施設活性化事業実行委員会(委員長 伊東史朗県立博物館長)発行のカラー刷り16頁の冊子で、これは、若い人への災害の意識を高める上でも、実に有益な教育資料だと思われた。それは、前回のメッセージにも記した「歴史に学ぶ」という実践例であり、和歌山県の「大綱」とも連なっている。

(2021年2月10日)

 

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