和歌山県は、海外への移民が全国第6位に上る「移民県」として知られています。そのなかには、海を渡った先で美術を志した者たちがおり、特にアメリカで活動した作家たちは、アメリカ美術の歴史と大きく関わりながら活動し、数多くの足跡を残しました。こうした和歌山県の歴史に関連して、和歌山県立近代美術館では戦前の渡米画家たちの仕事を展覧会や調査研究、作品収集の重要なテーマとしていますが、このたび県内関連機関と連携して、全米日系人博物館(Japanese American National Museum)を中心としたアメリカの研究者・研究機関との交流を開始することになりました。本シンポジウムはその最初の事業として実施します。
移民、あるいは日系人の美術は、美術史の文脈においては日本美術・西洋美術研究の双方にまたがるが故に、大きな歴史の語りからはこぼれ落ちやすい傾向があります。かつ「日本を内包したアメリカ」という観点からは、「戦後100年」が視野に入ってきたいま、美術分野に留まらない歴史の編み直しを必要とする領域でもあるでしょう。近代史、近代美術史、あるいは人種や民族の問題にも関わる大きなフィールドではありますが、和歌山県にとっては郷土史の重要な一部分であり、ローカルな教育活動にもつなげていく責任があります。
今回のシンポジウムでは、このテーマを日米双方から広く問い直すためのきっかけを生み出すべく、日米両国の研究者による報告と、県内の関連資料を所蔵する博物館施設での研究を紹介します。それぞれの視点と研究の「現在地」を確認し、その歴史と研究を共有する第一歩としたいと思います。
なお本事業は文化庁「令和4年度博物館等の国際交流の促進事業」採択事業の一部として実施するものです。
開催概要
日時:2022年12月11日(日) 11時〜17時
会場:和歌山県立近代美術館 2階ホール
主催:和歌山移民研究を軸とした国際交流事業実行委員会
参加無料(どなたでもご参加いただけます)
*事前申込は不要ですが、当日受付にて、緊急連絡先のご記入にご協力をお願いします。
日英同時通訳つき
定員80人程度(通訳機器80台)
*新型コロナウイルス感染拡大防止にご協力ください。
登壇者
【海外招聘研究者】 |
【国内招聘研究者】 |
【県内研究者】 |
司会 青木加苗 和歌山県立近代美術館学芸課主査学芸員 |
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プログラム(予定)
11:00 | ごあいさつ 和歌山県立近代美術館館長 山野英嗣 |
本事業の概要について 青木加苗 | |
11:10 | Session 1. 包括的な移民研究資料の収集・保存から |
クリステン・ハヤシ「全米日系人博物館のコレクションについて:物語が息づくところ」 HAYASHI, Kristen Introducing JANM’s Permanent Collection: Where Stories Live On |
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東悦子「和歌山県における移民関連機関の連携構築と移民資料の保存と継承」 | |
12:10 | 休憩 |
13:10 | Session 2. アメリカ日系移民美術研究の現場から |
奥村一郎「和歌山からアメリカへ——移民と美術 和歌山県立近代美術館の取組みについて」 | |
山下奈津子「ヘンリー杉本と「キャンプシーン」」 | |
櫻井敬人「出稼ぎ労働者と故郷の間の絆、石垣栄太郎の孤独」 | |
五十殿利治「ニューヨークから東京そして台湾へ 重松岩吉の軌跡」 | |
15:15 | 休憩 |
15:30 | Session 3. 移民美術史の構築を目指して/日米の視点から |
シープー・ワン(王士圃)「対岸の故郷:排斥時代の米国における日系芸術家コミュニティについての概要」 WANG, ShiPu Home on Another Shore: A Brief Survey of Nikkei Artists’ Communities in the Exclusion-Era United States |
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岡部昌幸「「移民の美術・日系アメリカ人美術史」は成り立つか?—開国から排斥、ジャポニスムからマルチカルチャーへの150年」 | |
16:15 | 総合討議 |
16:55 | 終了 |
*休憩時間等、進行状況によりずれることがあります。