会期:2024年07月13日(土)~2024年09月23日(月)
「こともの」——この不思議な響きのことばは、「コト」と「モノ」でしょうか。それとも「こども」に関する何かでしょうか。美術作家の河野愛(かわの あい/1980– )は近年、「こともの」と題したシリーズの作品に取り組んでいます。河野自身は「異物/異者」と表記される古語として、このことばを選んでいます。乳児の肌のくぼみに真珠を挟んだ様子を撮影した一連の作品は、そのやわらかな肌の心地よい感触と同時に、真珠という異物が肌の合間に存在する違和感、またクローズアップによる距離の測れなさ、そして怖さをも見る者に感じさせます。
河野が「こともの」を制作のテーマとしたのは、2019年末、コロナ禍に見舞われる直前に出産し、子育てが始まったことがきっかけでした。見えないウイルスという異物が世界を脅かし、外出が極度に制限されるなか、河野は生まれたばかりの乳児と向き合う日々を送ることになります。自分の身体のなかから生まれ出た存在ながら、コミュニケーションの難しい異者である乳児との生活は、その状況も相俟ってさまざまな困難を伴いましたが、その結果、河野に「こともの/異物/異者」という存在に向き合う視点を与えることになりました。
ところで美術館には体系立てて集められたさまざまなコレクションが存在しますが、収蔵された作品は過去の「遺物」でもあり、また作品同士は互いに「異物/異者」として存在します。それらを時代やジャンルに縛られることなく自由に出会わせることで、美術と美術館の楽しみ方をさまざまな視点から紹介する場として設定してきたのが、和歌山県立近代美術館が2011年より継続するシリーズ展「なつやすみの美術館」です。14回目となる今回、河野愛を本展の招聘作家に迎え、美術館のコレクションに「こともの」である河野の作品を加えることで、また河野自身が美術館のコレクションという「こともの“と”」と出会うことで、美術館を訪れる人にとっての新たな「こともの」との出会いの場を生み出したいと思います。
本展の開催に際して、河野愛の新作《100の母子と巡ることもの》に参加してくださる方(乳児(1歳未満の子)を持つ母子)を募集します。
このプロジェクトでは、お申し込みいただいた方に、河野愛が自身の作品である「真珠が一粒入った箱」を郵送します。参加者には、真珠と乳児の写真を撮影して河野さんにご返送いただきます。
参加申し込みおよび詳細情報は本ページ下部のPDFファイルおよびこちらのリンク先からご確認ください。
ネオン管を用いた作品《I》は、河野の祖父母がかつて経営していた白浜のホテルの看板から取り出した一文字。河野はこの作品を、自身の幼少期の思い出や土地と地域の記憶、そしてそれらを呼び起こす「標」として、2018年よりさまざまな場所で展示してきた。本展でも出品予定。
河野愛(かわの あい)
1980年生まれ。2007年京都市立芸術大学大学院 美術研究科修士課程 工芸専攻 染織 修了。染織やテキスタイルを制作におけるルーツとし、陶やガラス、布、収集した骨董、写真などを複合的に用いながら、場所や人の記憶や時間、価値の変化をテーマにしたインスタレーションを発表している。
近年の主な展覧会に、「Soft Territory かかわりのあわい」滋賀県立美術館(2021)、紀南アートウィーク(2021)、大阪関西国際芸術祭(2022)、など。
展覧会情報
会場 | 和歌山県立近代美術館 2階展示室 |
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会期 | 2024年07月13日(土)~2024年09月23日(月) |
開館時間 | 9時30分−17時(入場は16時30分まで) |
休館日 | 月曜日(ただし祝日にあたる7月15日、8月12日、9月16日、9月23日は開館し、翌平日の7月16日、8月13日、9月17日は休館) |
観覧料 | 一般 520(410)円、大学生 300(260)円 ( )内は 20 名以上の団体料金 *高校生以下、65歳以上、障害者、県内に在学中の外国人留学生は無料 *7月27日、8月24日(毎月第4土曜日) は「紀陽文化財団の日」として大学生無料 *8月4日、9月1日(毎月第1日曜日)は入館無料 |
主催 | 和歌山県立近代美術館 |
ダウンロード/File Download
「100の母子を巡ることもの」参加者募集 (ダウンロード / PDFファイル / 1.42MB)