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館長からのメッセージ/2011.6.20

いかにも梅雨と呼ぶにふさわしいジメジメとした天気が続いていますが、皆様はお元気でお過ごしでしょうか。

東日本大震災から100日が過ぎました。放射能問題についてはまだまだ予断を許しませんが、全体としては少しずつ復興のきざしが見えてきたように思えます。被災した文化財の救出活動もようやく始まりました。絵画、彫刻をはじめ広く文化財は人間の精神と心の営み、そして地域の記憶と誇りを伝えるものです。被災した地域がこれから復興に向かうなかで、文化財は人びとの心の支えとして重要な役割を果たすものと信じます。当美術館の職員も石巻文化センターと陸前高田市立博物館への救援活動に参加しています。

また、このたびの震災は日々の生活の在り方と同様、美術館の運営についても、われわれに強く反省を促しているように思います。その一つは、限られた資源とエネルギーの下で、これから美術館はいかにして有形の文化財を保存し、それを未来に伝えていくかという問題です。たとえば、当館をはじめ多くの美術館は作品を良好な状態で保存・展示するために惜しみなく電力を消費してきました。しかし、今後、安易な消費は許されなくなるでしょう。電力に頼らない美術館というものはもはや考えられませんが、それでも奈良の正倉院の宝物が千数百年という時間を超えて今に伝えられていることを思えば、先人たちの知恵と工夫を現代に生かすことを考えるべきでしょう。

「コレクション展2011−春」と「吉田政次の世界展」は6月12日、「ポップ? ポップ! ポップ♡ コレクションに見るポップなアートの50年」は6月19日に終了しました。ご来館くださいました皆様には心からお礼を申しあげます。

「ポップ? ポップ! ポップ♡」はとくに若い人たちのあいだで好評を博しました。評価の定まった観がある1960年代を中心とするアメリカのポップアートに限定せず、世界を股にかけて活躍する村上隆や奈良美智、さらに目下売り出し中のパラモデル(林泰彦、中野裕介)のポップなアートを含めたことが良かったのかと思います。

パラモデルの作品に対しては、「ワシにはわからん」とか「ふざけている」といったご意見もいただきましたが、「日本は模型的な島国」と語る辛辣な批判精神と「大阪的」な過度のサービス精神が同居するこのエンターテイナー・アーティストの作品には、私も思わず笑いをとられました。今日、「芸術とは何か」と問われても、私には答えようがありません。「芸術とは芸術を定義することだ」という或るアーティストの名言が心に浮かびます。

6月28日(火)から「コレクション展2011−夏」(9月4日まで)が、7月2日(土)からは、「なつやすみの美術館 みること うつすこと」(8月28日まで)が始まります。「コレクション展」では、和歌山出身の田中恭吉とともに詩と創作版画の同人誌『月映』を刊行した恩地孝四郎と藤森静雄の生誕120年を記念する展示、ならびに、和歌山に生まれ日本画の革新に大きく貢献した川端龍子の没後50年の記念展示を行います。また、「なつやすみの美術館」では現代美術のなかで果たした写真の役割について考えてみます。ワークショップ「もっと光を 2」をはじめさまざまな関連事業を準備していますので、どうかご期待ください。

皆様のお越しをお待ちしています。

 

2011年6月20日

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