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わが国の近代美術館事情42

わが国の近代美術館事情42

(5)「和歌山県立近代美術館」の昨日、明日―その39

前回、「当館でも『トランスボーダー 和歌山とアメリカをめぐる移民と美術』展を開催したが、次回のメッセージでは、あらためて当館が関係するロサンゼルスを中心とした移民をめぐるホットな話題も提供できるだろう」と記した。

それ以前のこのメッセージ「わが国の近代美術館事情39」でも、「移民」のこと、そして「トランスボーダー」展について書いたことがある。そこでターミナルアイランドや、和歌山県出身の知られざる「アメリカに生きた日系人画家たち」の一人として、「トランスボーダー」展でも大きく取り上げた上山鳥城男のことなどを紹介した。そこで、「今回、全米日系人博物館からは、先の『アメリカに生きた日系人画家たち 希望と苦悩の半世紀 1896-1945』以来2度目となる全面的な協力をいただき、より一層充実した内容となったことを感謝したい」とも綴った。

こうした成果の上に、このたび5月22日にロサンゼルスの全米日系人博物館(以下、JANM)で、同館と当館との間で姉妹館提携が結ばれることとなった。すでにこの内容は、当館のホームページや、幸いにも新聞各紙でも報道され、ご存知の方も多いと思う。

昨年10月には、「〜海を渡った先人達〜海外・県外で活躍する和歌山県人がここに集う」のスローガンのもと、2019年の開催以来、2回目の和歌山県人会世界大会が和歌山県民文化会館など県内各地で開かれた。「トランスボーダー」展はその記念特別事業として開催されたのであった。

そして、こうした事業実現のお礼の意味も込めて、5月20日から23日まで、同地の南カリフォルニア和歌山県人会との方々と再会し、ターミナルアイランドやロサンゼルス港の歴史を伝えるマリタイムミュージアムなどの訪問をとおして、和歌山県にルーツをもつ会員の多いターミナルアイランダーズの方々とも親交するため、岸本周平知事や県議会議員他の方々12名とともに、当館からは私と青木加苗学芸員はロサンゼルスを訪問した。

この一連の行事で、岸本知事も立ち合われて、当館とJANMとの姉妹ミュージアム提携締結式典が行われたのであった。

 

私の経験で恐縮だが、公立美術館が海外のミュージアムと姉妹館友好提携を結ぶ例もまだ珍しいが、かつて勤務していた兵庫県立近代美術館(現兵庫県立美術館)でも、スペイン国立現代美術館との間で、1979年に友好姉妹提携盟約調印が成された。その後、学芸員が1年、同館での研修を行う機会にも恵まれたが、その成果として、1985年12月に兵庫近美、そして国際交流基金などの主催で「具体―行為と絵画」展が、スペインの同館で開催され、その後3月から5月までユーゴスラビアにも巡回した。

この時、担当された先輩学芸員の山脇一夫氏の積極的な活動が、今でも思い出される。展覧会の開催だけではなく、吉原治良の作品7点をはじめ、白髪一雄や元永定正、田中敦子ら30点の作品を、直接作家と交渉されて収蔵されていったそのパワーにも驚いた覚えがある。そしてその成果は、翌年のパリ、ポンピドゥー・センターで開催された「前衛芸術の日本 1910-1970」展での、大々的な具体美術協会の出品に結びつき、「具体」が、一気に海外で脚光を浴びる嚆矢となった。それが、海外美術館との姉妹館提携が契機となっていたことは、あまり知られていないだろう。

 

しかしながら、兵庫では、その具体的な成果が実現するには、提携からほぼ6年の歳月を要している。その意味でも、まずは姉妹館提携という第一段階を土台に、時間をかけてこの友好関係を熟成していかなければならない。幸いJANMには若いスタッフも多く、これからは柔軟な発想で、たとえばオンラインを活用した双方向の交流も期待できるし、相互の学芸員たちの人的交流による研究成果の発信も、今後の課題となるだろう。

JANMも、博物館とはいえ、歴史資料とともに、ヘンリー杉本や上山鳥城男らなど移民画家たちの作品も収蔵し、交流の原資ともなる両館のコレクションの活用なども、今後の重要な柱となってくるだろう。

また当館でも、一昨年から、「移民と日系人の美術」をテーマにした「移民と美術をめぐるシンポジウム Vol.1 和歌山/アメリカ:研究の『現在地』」、そして昨年は、「移民と美術をめぐるシンポジウム Vol.2 アメリカ西海岸の日系移民とアートシーン」と題した2回の国際シンポジウムを、文化庁の「令和4年度博物館等の国際交流の促進事業」、「令和5年度 文化庁 Innovate MUSEUM事業」の採択事業として開催してきたが、ここでも、国内外の研究者に加えて、当館の学芸員とともに、JANMのキュレーターの方々もパネラーとして参加いただいた。

 

こうした事業も、今後継続することによって、今回の姉妹館提携を、より実りあるものとして結びつけていくこともできるだろう。さらに当館だけでなく、JANMを会場に、あるいは今回も訪問することができたロサンゼルスの日米文化会館なども会場として、相互にシンポジウムや教育普及事業などを開いていくことができるならば、この姉妹館提携は、広く国際文化交流に資していくことは間違いない。

そして、今回の第一歩を機に、今後の両館の若い館員たちによって、この姉妹館交流が定着し、多くの成果をもたらして欲しいと思う。と同時に、わが国の美術館における新たな国際交流の場として、規範となるような活動に育っていくことを願うばかりである。

 

また、今回の好機をとらえ、全工程終了後1泊延長して、海外ではじめて収蔵された黒川紀章のカプセルを確認するため、サンフランシスコ近代美術館に赴いた。そして、今月30日に行われるコスプレ声ちゃんのイベント「帰ってきたカプセルディスコ in 和歌山」ととともに、次回、そのことも合わせて報告したいと思う。

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