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わが国の近代美術館事情41

わが国の近代美術館事情41

(4)「和歌山県立近代美術館」の昨日、明日―その38

前回「新年を迎え、瞬く間に1か月が過ぎてしまった」と書いたが、早いもので、それからさらに4月も駆け足で過ぎてしまった。

そして年明けからこの間、築30年近くを迎えた黒川紀章設計による当館は、安全確保のための工事で休館していた。当館のホームページにも記しているように、今回の工事は、他にほとんど類例のないデザインによるエレベーターの全面改修であった。黒川紀章建築都市設計事務所の監修で無事再開の運びとなり、4月27日から、2階では「土が開いた現代 革新するやきもの」展が、そして1階では「コレクション展2024―春 小さくていいもの、あり〼」がはじまっている。

同時に1階ロビーでは、リニューアルされたエレベーターとも呼応するように、「コスプレ声ちゃんのカプセルタワービルデイズ展 in 和歌山」を開いている。この展覧会のあいさつパネルには、「漫画やアニメ、特撮ドラマのキャラクターに扮してアニメソングなどのレコードを回し、マニアのあいだで知られる存在のコスプレDJ声ちゃん。UFOが大好きな声ちゃんは宇宙人が作ったような中銀カプセルタワービルに魅了され、2018年から2022年1月まで実際に住み、そこからDJの配信をしました」とある。

 

すでにご存知の方も多いと思うが、黒川紀章の代表作であるこの中銀カプセルは、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトの協力をいただき、当館正面入り口で、昨年8月から展示用A908号室の公開もはじまっている。当館が開館した2年後の1972年に、東京・銀座に竣工した中銀カプセルタワービルは、老朽化に新型コロナウィルスのパンデミックが追い打ちとなり、惜しまれつつ解体・撤去されたことは、多くのメディアでも取り上げられた。そしてこのカプセルは、同プロジェクトによって23戸が救出され、黒川紀章建築都市設計事務所の監修で、展示用も含めて再生された。この事業は、海外の美術館からも注目され、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)をはじめ、今後も、国内外の美術館で収蔵されていくだろう。

 

そして今回、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトの代表・前田達之さんと、以前も紹介したマサ・ヨシカワさん、さらに声ちゃんが、「コスプレ声ちゃんのカプセルタワービルデイズ展in 和歌山」の展示に合わせてふたたび来館され、再会の交流の機会を得たことは、私も嬉しかった。

そのマサさんが製作された「ミリキタニの猫」の映画については、すでにこの「メッセージ」の38回でも紹介した。この映画の主人公で、カリフォルニア州サクラメントに生まれ、画家となった日系二世のジミー・ミリキタニ氏は、太平洋戦争で敵性外国人として、ツールレイクの日系人強制収容所に送られた体験ももつ。

昨年には、当館でも「トランスボーダー 和歌山とアメリカをめぐる移民と美術」展を開催したが、次回のメッセージでは、あらためて当館が関係するロサンゼルスを中心とした移民をめぐるホットな話題も提供できるだろう。加えて、この「コスプレ声ちゃんのカプセルタワービルデイズ展 in 和歌山」会期末の6月30日(日)には、コスプレ声ちゃんのDJライヴも予定されているので期待していただきたい。

 

さて、「近代美術館」には、新たな「表現」を求める美術家の作品を積極的に紹介していく使命が課されている。そのためには当然のことながら、そうした新たな「表現」を評価する美術館の姿勢も問われてくる。しかし、たとえば先の黒川紀章のカプセルは、1972年に出現していた過去の建築「表現」であるにもかかわらず、現代、逆にその革新性が再評価され、クローズアップされる特異な事例ともなっている。

若い人たちこそ、このカプセルに、過去の郷愁ではなく、未来を感じとってほしい。その意味でも、「カプセル宣言」が一柳慧の《生活空間のための音楽》(1970年)で、黒川の「肉声ではなくコンピュータに喋らせる演出を行った」(CD《日本の電子音楽 Vol.5 ミュージック・フォー・ティンゲリー》の一柳慧自身の「ライナーノート」より)のも、当時の最先端をいく「表現」であり、「建築と音楽の出会い」ともなった。

 

そして、美術館の再開とともに、2階展示室で開催している「土が開いた現代 革新するやきもの」展(この展覧会も6月30日まで)は、キャッチ・コピー「茶碗ちゃうで」のごとく、いわゆる「用」が想定されない造形物として創造された「やきもの」が並ぶ。おそらく、なぜこれが「陶芸?」といった作品も数多く並んでいる。私はむしろ、子供たちにもこの展覧会をじっくり見てほしいと思っている。こんな面白い「表現」があることにも気づかせる、絶好の機会であるかもしれない。カプセルとともに、若い人たちにこそぜひ見てほしい。

絵画や版画の平面作品に加えて、彫刻そして工芸の領域でも、とりわけ20世紀半ば以後、新たな「表現」が生まれていった。この「陶芸が開拓した新しい表現の世界をふりかえる」展覧会は、その動向をあらためてたどる機会となっている。

 

と同時に、当館がこうした作家たちの作品を積極的に収集し、「現代陶芸」の分野でも、充実したコレクションを形成してきていることを再確認いただきたい。ある意味で、展覧会を企画し、会場に作品を展示するだけであれば、作品の借用・返却や図録などの作成に費やさなければならない労力はあるものの、展覧会がすべて終了すれば、一応それはそれで責任は果たしたことになる。

しかし、購入や寄贈どちらの場合にしても、その出品作品から、作品を選んでコレクションに加えることは、なお一段のハードルを必要とする。とりわけ「現代美術」となれば、先にも記したように、「新たな『表現』を評価する美術館の姿勢が問われる」ことになる。

そうした経緯を経て、コレクションだけでひとつの展覧会が企画・成立することが、実は、美術館にとっての理想像であることは間違いない。「コレクション展」の再評価、そしてそのひとつの成果として、「土が開いた現代 革新するやきもの」展もご覧いただきたいと思っている。

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