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館長からのメッセージ/2010.2.23

立春を過ぎたとはいえ、春はまだまだ遠いという感じですね。皆様はいかがお過ごしでしょうか。

和歌山県立近代美術館では開催中の、「美術百科」シリーズの第8回目「ここはどこ?」は2月23日(火)から第2期に入りました。版画とデッサンを中心に約150点の作品を入れ替えました。

当館は油彩画・日本画・版画・写真・彫刻など、約1万点の美術作品を収蔵していますが、この豊かなコレクションの魅力をひとりでも多くの皆様に知っていただきたいという思いで開催しているのが、この「美術百科」シリーズです。今回は「ここはどこ?」という問いを手がかりに、美術という不思議な世界を探検していただきます。

「ここはどこ?」は、作品に表された特定の場所や空間への問いだけでなく、作品をつくる材料が採れた場所、あるいは作品がつくられた場所、そして作者が、そして私たちがいる場所や状況への問いでもあります。時には「場違いの場所」ということもあるでしょう。このような「ここはどこ?」という問いのさまざまな意味について、まず、ちょっと考えていただいたあと、地元和歌山にちなんだ作品、続いて都市と田園、名所と身近な風景といったテーマの下に作品をご覧いただきます。それから物語が展開する空想の世界へ。そして天国と地獄をめぐったあと宇宙へ飛び立ち、最後はふたたび大地に戻るという壮大なストーリーにもとづく展覧会です。

今回の展覧会には約300点のさまざまな作品が展示されていますが、ここではそのなかから特に興味深い作品を紹介させていただきます。

そのひとつは展示室の外の1階北側の通路に展示されている栗田宏一さんの作品『ソイル・ライブラリー/和歌山』です。栗田さんは日本全国、さらに世界各地の土を採取し、それぞれビンに入れて標本のように展示するという大変ユニークなアーティストです。ここでは和歌山県の各地で採取された108種の土が微妙に異なる美しいグラデーションを見せています。「わざわざ遠くまでいかなくても、とても身近なところで“美しさ”は見つかります。足下の土がこんなにきれいだなんて。・・・・・」と栗田さんは語っています。なお、この作品を当館に寄贈しようと、「美術館にアートを贈る会」が目下募金活動を展開してくださっています。この主旨に賛同し、活動にご参加いただければ、われわれにとって望外の幸せです。どうかよろしくお願いいたします。

そのほか私をとくに感動させたのは、飯塚二郎さんの『地下からの視線』と題する2点の作品です。地面に広げたやわらかい粘土の上に作者は自分の身体や草木を押しつけ、その痕跡を型にして、その場にある土砂が混ったポリエステル樹脂を流し込んでつくった作品です。大地を相手に全力で格闘する作者の姿がまざまざと示されています。興味深いのは、その一方の作品(1992年)がかつて当館で開催されていた第5回和歌山版画ビエンナーレ展に出品されたことです。きっと皆様は「これがどうして版画なの?」と疑問に思うでしょう。これは版画が過激だった時代の痕跡なのです。


この展覧会では美術に親しんでいただけるよう、いろいろ工夫がこらされています。作品のかたわらにつけた短い解説もきっと役に立つと思います。また、お子様とご希望される大人には、3色のかわいらしいセルフガイド「ここはどこ?」を無料でお配りしています。親子いっしょに美術館に来てください。
右の2点が、飯塚二郎作品

この展覧会をご覧になって、皆様ひとりひとりが新しい発見をしてくだされば幸いです。

 

2010年2月

 

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