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館長からのメッセージ/2010.4.01

和歌山県立近代美術館開館40周年を迎えて


和歌山県立近代美術館が県民文化会館の1階に誕生してから、今年の11月でちょうど40年になります。近代美術を標榜する美術館としてはわが国では5番目に古い美術館です。

私もこの4月で美術館の世界に満34年暮らしたことになりますが、この間だけでも美術館が社会から求められている役割は大きく変化してきました。美術館の使命、それは価値のある美術品を収集し、公開することによって人の心を豊かにし、創造力を育み、さらに、それらを保存して次世代に伝えることだと思います。

この基本的な使命はいまでも変わってはいないと思うのですが、美術館を取りまく社会、そして何よりも美術自身が大きく変化してきたことは否定できません。

いま美術館に展示されている作品のなかには、たとえばマンガやアニメなど、ひと昔まえだったらとても美術品とは呼べなかったようなものもあります。絵画、彫刻、工芸、版画、写真といった従来の美術ジャンルを横断した作品。さらにヴィデオやコンピューター・グラフィックなど新しいメディアを駆使した作品。音楽や舞踊など他の芸術分野と一体化した作品も登場しています。そして、一定期間だけ展示することを目的につくられたインスタレーション。鑑賞者が加わることによってはじめて成立する参加型の作品等々。新しい美術は従来の美術館の枠に収まらなくなってきました。美術館が収集すべき対象も、美術品という「もの」に限定されず、美術品にかかわる情報や制作のコンセプトに範囲を拡大しつつあります。

美術館と来館者の関係も、かつては美術館側がすでに認められた美術の価値を来館者に教えるという一方方向の関係でしたが、いまではボランティアをはじめさまざまなかたちで、市民の皆様が自主的に美術館の運営に参加してくださっています。社会的責任を自覚した個人、NPO法人、民間企業などとの「協働」なくして美術館の運営は成り立たなくなってきています。一言でいえば、これまで美術館を取りまいていた塀が崩れつつあるということです。

当館は開館以来、特色のあるコレクションの形成、斬新な企画展の開催、それらを支える調査・研究活動などにおいて、きわめて着実な成果を挙げてきました。いまわれわれにとって重要な課題は、新しい状況のなかで、これらの成果をいかにして生かし、発展させるかということです。

当館とそのコレクションはすべての和歌山県民、そして広く美術愛好家の方々の共有財産です。皆様がそこで常に新しい発見をし、日々の生活をより創造的なものにしていただければ幸いです。皆様から愛され、皆様ひとりひとりに「私の美術館」と思っていただけるような、活力のある魅力的な美術館を目指して職員一同頑張ります。ご支援とご協力、そして当館の活動への積極的なご参加をお願い申し上げる次第です。

いま当館で開催している展覧会『美術百科「ここはどこ」の巻』は、4月11日(日)で終了します。大変おもしろい展覧会です。まだご覧になっていない方は、どうかお見逃しなく!

この展覧会に出品されている栗田宏一さんの作品《ソイル・ライブラリー/和歌山》は4月11日以降も展示します。この作品を当館に寄贈するため、「美術館にアートを贈る会」が2年以上にわたって展開してくださっていた募金活動も、いよいよ最終段階に入ってきました。和歌山県内54市町村(平成の合併前)で採取した108種類の土がみごとなグラデーションを見せています。日ごろ気にも留めてなかった足もとの土がこんなに美しいとは、本当に驚きました。「贈る会」の趣旨に賛同され、そして何よりも、この作品をご覧になっておもしろいと感じられた方のご協力を期待しています。どうかよろしくお願いいたします。


2010年4月1日

雪山行二

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