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館長からのメッセージ/2010.6.18

和歌山県立近代美術館開館40周年を迎えて


和歌山県立近代美術館が県民文化会館の1階に誕生してから、今年の11月でちょうど40年になります。近代美術を標榜する美術館としてはわが国では5番目に古い美術館です。

私もこの4月で美術館の世界に満34年暮らしたことになりますが、この間だけでも美術館が社会から求められている役割は大きく変化してきました。美術館の使命、それは価値のある美術品を収集し、公開することによって人の心を豊かにし、創造力を育み、さらに、それらを保存して次世代に伝えることだと思います。

この基本的な使命はいまでも変わってはいないと思うのですが、美術館を取りまく社会、そして何よりも美術自身が大きく変化してきたことは否定できません。

いま美術館に展示されている作品のなかには、たとえばマンガやアニメなど、ひと昔まえだったらとても美術品とは呼べなかったようなものもあります。絵画、彫刻、工芸、版画、写真といった従来の美術ジャンルを横断した作品。さらにヴィデオやコンピューター・グラフィックスなど新しいメディアを駆使した作品。音楽や舞踊など他の芸術分野と一体化した作品も登場しています。そして、一定期間だけ展示することを目的につくられたインスタレーション。鑑賞者が加わることによってはじめて成立する参加型の作品等々。新しい美術は従来の美術館の枠に収まらなくなってきました。美術館が収集すべき対象も、美術品という「もの」に限定されず、美術品にかかわる情報や制作のコンセプトに範囲を拡大しつつあります。

美術館と来館者の関係も、かつては美術館側がすでに認められた美術の価値を来館者に教えるという一方方向の関係でしたが、いまでは、新しい価値を来館者に発見してもらおうという方向にスタンスを変えつつあります。また、ボランティアをはじめさまざまなかたちで、市民の皆様が自主的に美術館の運営に参加してくださっています。社会的責任を自覚した個人、NPO法人、民間企業などとの「協働」なくして美術館の運営は成り立たなくなってきています。一言でいえば、これまで美術館を取りまいていた塀が崩れつつあるということです。

当館は開館以来、特色のあるコレクションの形成、斬新な企画展の開催、それらを支える調査・研究活動などにおいて、きわめて着実な成果を挙げてきました。いまわれわれにとって重要な課題は、新しい状況のなかで、これらの成果をいかにして生かし、発展させるかということです。

当館とそのコレクションはすべての和歌山県民、そして広く美術愛好家の方々の共有財産です。皆様がそこで常に新しい発見をし、日々の生活をより創造的なものにしていただければ幸いです。皆様から愛され、皆様ひとりひとりに「私の美術館」と思っていただけるような、活力のある魅力的な美術館を目指して職員一同頑張ります。ご支援とご協力、そして当館の活動への積極的なご参加をお願い申し上げる次第です。

当館ではいま、開館40周年記念展の第一弾「ようこそ彫刻の森へ」を開催しています。。和歌山県はすぐれた画家や版画家を多数輩出していますが、彫刻の世界でも、建畠大夢(1880-1942)と保田龍門(1891-1965)という日本の近代アカデミズム彫刻を確立した二人の作家を生んでいます。そして彼らの息子たち、建畠覚造(1919-2006)と保田春彦(1930生まれ)も彫刻家になり、しかもそろって抽象彫刻の分野で主導的な役割を果たしてきました。

今回の展覧会では、コレクターの方々からお借りしたロダン、ブールデル、マイヨールらの作品を背景に置きながら、建畠と保田の二組の父子の作品を中心に日本の近代彫刻の展開を紹介させていただきます。そしてさらに、今日、彫刻あるいは立体作品がいかに多様化しているかということを、さまざまな作品を通して実感していただきます。中西夏之の≪コンパクト・オブジェ(卵)≫、篠原有司男のダンボールで作ったぐちゃぐちゃなオートバイ、奈良美智の≪どんまいQちゃん≫、藤浩志の≪ヤセ犬≫など、おもしろい作品がまるでおもちゃ箱をひっくり返したかのように会場内に散らばっています。お子さんたちもきっと喜ぶでしょう。ぜひご覧ください。

栗田宏一さんの作品≪ソイル・ライブラリー/和歌山≫を当館に寄贈するため、「美術館にアートを贈る会」が2年以上にわたって展開してくださっていた募金活動がとうとう目標に達し、めでたく終了いたしました。「贈る会」の高い志に賛同され、ご協力くださいましたすべての方々に、心からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。


2010年6月18

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