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館長からのメッセージ/2010.盛夏

暑中お見舞い申しあげます。 梅雨あけ以来猛暑が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、当館では7月17日(日)に「コレクション展2010-夏秋」が始まりました。盛り沢山の内容ですが、そのなかで特に興味深いのは、およそ100年前に描かれたスケッチをとおして和歌山のまちを散策する「大亦(おおまた)新治郎のスケッチから-明治・大正の和歌山のまち」ではないでしょうか。大亦新治郎(1894-1947)は和歌山広瀬船場町(現・船場町)に生まれ、のちの日本画家大亦観風(かんぷう)として活躍しますが、若いころは洋画家を目指していました。明治末期から大正の初めにかけては大亦は市内各地を歩きまわり、日付けと場所を記したスケッチを数多く残しました。そこには100年前の和歌山のまちの姿と人びとの暮らしがいきいきと描かれています。皆様の住んでいる場所、日ごろ見知っている場所がどんな様子だったか、よくわかります。

展示室の床の中央には、拡大された1913年(大正2)年発行の「和歌山市街地図」が敷かれています。道幅は広がったとはいえ、まちの基本的な構造はいまとほとんど違いがないことに驚かされます。当時生きていた人は数少ないですが、戦前のまちの様子をおぼえている人ならまだ沢山います。これらのスケッチや地図を前にして世代を超えた会話が生まれ、世界でたったひとつしかないまち、和歌山を見なおすきっかけになれば幸いです。

そのとなりの展示室では、『中学校美術家教科書副本読本 美術資料 和歌山』(秀学社)に写真が掲載されている当館所蔵作品を展示しています。写真で日ごろ知っている作品の本物をこの機会にぜひ見てください。本物は写真で見るよりずっとすばらしいということを、実感してもれえると思います。

2階で開催されている開館40周年記念展の第一弾「ようこそ彫刻の森へ」は、日本近代彫刻の展開を紹介するとともに、「彫刻ってなんだろう」・「芸術ってなんだろう」と考えさせる不思議な展覧会です。奈良美智の≪どんまいQちゃん≫や藤浩志の≪やせ犬≫など、おもしろい作品がまるでおもちゃ箱をひっくり返したかのように会場内に散らばっています。お子さんたちもきっと喜ぶでしょう。どうかぜひご覧ください。

いま当館は、開館40周年記念展の第二弾として、「日本近代の青春 創作版画の名品」(9月18日-10月24日)を準備しています。和歌山県は田中恭吉(きょうきち)と浜口陽三という日本の近現代版画史に偉大な足跡を残す作家を生み、当館はこの分野でわが国でも屈指の充実したコレクションを誇っています。この展覧会では、わが国に近代版画が誕生した1900年代の初めから1940年代に至る日本近代版画の諸相を、当館の所蔵作品を中心に約350の名品によって、一堂に展観しようとするものです。どうかご期待ください。

暑い夏は静かで涼しい和歌山県立近代美術館でお過ごしください。 皆様のお越しをお待ちしいたします。


2010年 盛夏

雪山行二

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