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わが国の近代美術館事情16

わが国の近代美術館事情16

(4)「和歌山県立近代美術館」の昨日、明日―その13

 

当館は現在、空調工事のため、4月26日まで休館としている。館の心臓部ともいうべき空気調和設備の点検、機器の交換という大規模な工事は、建設からそれ相応の年月が経過すれば避けて通るわけにはいかない。私も、かつて勤務した館で、重要文化財も出品される担当の展覧会の、そのまさに展示作業中に空調が突然動かなくなり、慌てふためいたことを思い出す。何とか動いていた上階の常設展示室に、全作品を移し替えて展覧会を開催しなければならないのか、といったことも頭をよぎった。開会式を迎えるどころではない緊急事態の発生に気が気でならなかった。幸い、庶務課長と設備業者の迅速な対応と連携によって事なきを得たが、本来はそうした不具合を事前に想定し、早めに手をうたねばならないはずだった。これを機に、それ以後、冬場に3か月の休館を調整し、最新のものに入れ替えることができた。

科学技術の進展とともに新しい機器は小型化し、電気・ガス使用量の省エネルギー効率も改善されている一方で、フロンガスが使えなくなるなどの「不便」も生じている。同様に照明器機も、LEDへの転換は急務で、美術館・博物館にとっても見過ごせない。予算面で大きな負担となるこのような課題に対しては、まず行政上の理解が不可欠であるのはいうまでもない。今回その理解を得られたことに感謝し、事故なく無事工事が終わることを祈るばかりだ。当館の職員エレベーターには月間工程表が掲げられているが、それを見ていると、前職の新居浜市美術館の建設にかかわった際、準備室時代の工程会議に、毎回出席していたことも思い出す。

一方、公立館の多くが加入する美術館連絡協議会発行の『美連協ニュース』最新号(no.141)に、「加盟美術館 休館・リニューアルオープン情報」として、改修工事館などが、当館を含め31館も列記されているのには驚いた。更に数館がリニューアルオープン「未定」と記されていて、その厳しさを痛感する。当館と同じく1980年代から90年代に建設された館の多くが、施設上不具合が生じてくるのは当然のことである。さらに当館も、自館のことだけでなく、休館中の滋賀県立近代美術館の作品も預かり、展覧会開催のみならず、緊急時の美術館同士の相互協力も必要になる。

黒川紀章建築都市設計事務所による当館の建物は、1994(平成6)年の開館から早25年が経過し、休館工事はやむを得ない。しかし、予算的に実現も難しいのは周知の上でも、個人的には、来年開館50年を迎えるに際し、汚れが目立つ外壁の高圧洗浄や、館内の様々の点検を行いながら、正面アプローチや外部スペースに、開館時は満たされていた美しい水面を復活させたいという願いもあるのだが。

黒川紀章による美術館建設、そして同じデザイン・コンセプトによって共鳴し隣接する県立博物館、さらには和歌山城との対峙という点からも、当館の立地環境は、全国的に希有で貴重な事例だろう。出勤の途次、交差点から眺める美術館の偉容に、いつも圧倒的な存在感を覚える。

折しも昨年は、館長室からも視野に入る和歌山県庁本館の竣工80年にあたっていた。この記念の年を待っていたかのように、幸い当時の設計図面も確認され、当館が昨秋開催した「和歌山−日本」展でも、この青焼き図面を県総務部総務管理局管財課のご好意によって出品いただいた。後日、県教育庁生涯学習局文化遺産課の御船達雄氏ほかの方々の尽力によって、当館でシンポジウムも開かれ、多数の方々の参加を得た。戦前から現存する県庁舎は、和歌山県を含めて全国に8例残るが、その美しい正面外壁の意匠や、階段踊り場壁面に埋められている和歌山出身の彫刻家・保田龍門のレリーフなども、ぜひご覧いただきたい。

すでに2012(平成24)年には、(社)和歌山県建築士会から『和歌山県庁本館』という書籍が出版されており、その帯には「歴史と文化のラビリンス~迷宮~近代化遺産としての県庁」とし、「戦後の復興から高度経済成長バブル期など時代の変化の中で全国の多くの県庁舎が高層ビルに建て替えられた中で、幸いにも和歌山県庁本館が残り、耐震補強と設備のリニューアルがなされて将来に託されることを県民として誇りに思います」と書かれ、私も先のシンポジウムの折に迷わず購入した。

あらためて感じたのは、私たちが活用する住空間を、明確に「近代化遺産」として再認識することだ。「近代」すなわち「現代」に連なる「モダン」という時代意識を、私は大切にしたい。企画した「和歌山−日本」展でも強調したのだが、来年当館が、「近代美術館」として50周年を迎えるこの機を捉え、あらためて現代の様々な「文化」についての問題を再考する場としたいという思いは強い。来年は文化庁も、東京オリンピック・パラリンピックに連動する文化イベント「日本博」を全国で展開する。さらに和歌山県では、2021年夏には全国高校総合「文化」祭が、秋には国民「文化」祭と全国障害者芸術・「文化」祭が「紀の国わかやま文化祭2021」として開かれる。

美術館も、建築ハードという器を刷新し、和歌山県の「文化」の一翼を担っていくべき態勢を迎える好機だと実感する。

(2019年2月19日)

 

 

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