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(4)「和歌山県立近代美術館」の昨日、明日—その5
前回触れたシンポジウムは、1月20日(土)に上野の東京文化財研究所で開かれた。正式名称は「シンポジウム これからの博物館の在るべき姿〜博物館法をはじめとする関連法等の改正に向けて〜」。主催は、日本学術会議史学委員会博物館・美術館等の組織運営に関する分科会と公益財団法人日本博物館協会。内容は以下のとおりである。
「開会のあいさつ」:銭谷眞美氏(日本博物館協会会長、東京国立博物館長)
「趣旨説明」:井上洋一氏(日本学術会議連携委員、東京国立博物館副館長)
「報告1」:小佐野重利氏(日本学術会議会員、東京大学大学院教育学研究科特任教授)の「提言の発出に至るまでの経緯と今後の課題」
「報告2」:芳賀満氏(日本学術会議連携会員、東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)の「提言『21世紀の博物館・美術館のあるべき姿—博物館法の改正へ向けて』の内容と今後の課題」
「報告3」:山西良平氏(日本博物館協会「博物館登録制度の在り方に関する調査研究委員会」主査、西宮市貝類館顧問)の「博物館登録制度の在り方に関する調査研究報告書から見えてくるもの」
「報告4」:栗原祐司氏(上記調査研究委員会委員、京都国立博物館副館長)
そして、最後に上記4名の報告者の方々に、矢島國雄氏(上記調査委員会委員、明治大学文学部教授)と栗田秀法氏(名古屋大学大学院文学研究科教授)の2名が加わって総合討論が行われた。
私は、小佐野氏、芳賀満氏の報告された日本学術会議史学委員会の「提言」が、すでにインターネット上に公開されていることを、当館の副館長や学芸員たちにも伝えていた。和歌山では、一昨年平成28年に、他の県立博物館とともに当館の学芸員も研究職となり、今後こうした動向に注視することは必要だと思ったからだ。そして現在は、文科省にぜひとも科研費代表申請資格が得られるよう問い合わせているところである。
本「提言」冒頭の「要旨」における「2 現状及び問題点」でも、学芸員について触れ、「職務の十全な遂行には、研究こそが不可欠である」とし、続けて「博物館法で研究業務の内容は限定され、研究機関指定を受けられないほとんどの博物館の学芸員には、科研費代表申請資格すらない」と記されている。こうした背景には、博物館法が1952(昭和27)年に社会教育法に準拠して施行され、文科省生涯学習政策局社会教育課の所管となり、他方、文化財保護法が1950(昭和25)年の施行で文化庁の所管となって、国立博物館(国立文化財機構に属する)と国立美術館が、現在独立行政法人法下にあることも影を落とす。
要するに、博物館の登録は、博物館法で教育委員会の所管とされ、一方国立館は、独立行政法人のため「博物館相当施設」と定義されており、国立館は「博物館」ではない。従って、研究職である国立館の学芸職員も、学芸員ではない。また、科研費申請の獲得には、研究費の配分とともに、いわゆる「査読」論文の数が必要条件となる。私は、担当展覧会の図録への執筆・編集を、美術館における「研究」行為と強く意識してきたが、科研費という側面からみれば、文科省では認められず、ハードルも高い。
これは当然のことだが、科研費申請が認められている国立館も、美術館・博物館として、展覧会の開催、作品収集に裏づけられた調査が大きな柱であり、これに教育普及が加わる。言い換えれば、展覧会や作品調査、教育普及という「研究」行為は、国立館、公立館さらに私立館でも変わりはない。それゆえ、ここであらためて、美術館における「研究とは何か」、その意味を問いかけなければならない。しかも、「研究」の成果発表として実現された展覧会は、そもそもこどもから一般のひとたちまでに開かれたものでなければならないという宿命を背負っている。また、すべてではないにしても、展覧会が新聞社などと共催して行われている現実もある。特に、このことは国立館で顕著であることも周知のとおりだろう。
今回のシンポジウムでも、「博物館法の改正による登録博物館と博物館相当施設の新たな登録制度への一本化」、すなわち、すべての博物館(美術館)を、「博物館」として一体的に扱う新博物館法の法整備が掲げられていた。加えて、博物館法第4条を改正し、学芸員の職務内容を見直して、博物館の「研究機関指定の基準、特に研究費予算措置などの基準の柔軟化を図るべき」と、本「提言」でもうたわれている。
しかしながら、こうしたいわば「博物館」といういわゆる「現場」にメスをいれるには、地方自治体の設置による公立館では、何よりも教育委員会など行政の理解が不可欠となってくる。そして私は、美術館存立の基盤となる「博物館法」について、見直し再検討の大きな柱として、本シンポジウム会場でも配布され、前回も触れた全国美術館会議の『美術館の原則と美術館関係者の行動指針』との連動が欠かせないと思う。なぜなら、それが取りも直さず「現場」の声を反映したものであり、行政に対しても訴えかける力をもつに違いないからである。そして実は、これまで触れてきた事柄が、わが国の「近代美術館」事情と切実にかかわっていることを、続けて次回に記してみたい。
(2018年3月1日)